hamachangのブログ

ダイアリー

5/28 ヒッチレースの記録

京都大学吉田寮で行われる吉田寮祭の一企画、"ヒッチレース"に単身参加してきた。参加者は吉田寮を午前0時に目隠しをされて出発、無一文で日本のどこかに置き去りにされそこからヒッチハイクで帰ってくるという趣旨の企画である。 

5/27の午前0時、吉田寮祭の開幕とともに命知らず達を乗せた車が一斉にスタートする。今回の参加者は約30人、私の乗車した車には他に2人の同乗者がおり、3人共に目隠しをされ後部座席に詰め込まれた。これから日本のどこかに飛ばされるという中々珍しい境遇の為か、目的地(?)に到着するまでの約5時間会話が止む事はなかった…と記憶しているがもしかすると後半少し寝ていたかもしれない。ただでさえ長時間自動車に揺られるのは体力を消耗して堪えるが、目隠しを締め付けている為に頭部の圧迫感と「どこを走っているのか判らない」という不安感に襲われ過酷なドライブであった。

そろそろ空が明るくなり始めた頃、車が停車。どうやら流刑地のひとつに到着したようである。エンジンが切られると外から微かに鳥の鳴き声、新鮮な空気の匂いもする。どうやら自然豊かな所らしい。山は嫌だ。もっと人のいる所がいいよ!自分で志願したくせに帰りたくなっている。心拍数が上がってくるのが分かる。これから3人のうち1人がドライバーから降車を宣告される…緊張の瞬間である。そして悪い予感は当たるモノで、多分に漏れず私が指名され降車。ドライバーの肩を頼りに歩き、目隠しを外すと眼の前には太平洋が…。正に絶望である。呆然としている間にスポーツドリンクを一本手渡され「じゃあ頑張ってねー!」と私をここまで運んだ白の普通自動車は颯爽と駆け抜けていった…。

 

冷静になり自分を俯瞰してみる。太平洋がふ見えるということは四国か九州?地平線なんて久々に見たな…と思い周りを見渡すと、大きく文字の書かれた看板が。「横波県立自然公園  帷子崎」の文字。横波県?こんな県があっただろうか、とぼんやり。隣にあったボロボロの地図看板を読もうと思っても、文字がかすれて読めない。しかし端っこの方にうっすらと地名を確認、「南国」とある。南国といえば高知県の南国市(なんこくし)のことだ。よーく目を凝らすとクジラの絵も描いてあるではないか…。私は高知県にやって来たようだった。高知の地理は全く分からないが、高知市に人が沢山いる事は知っている。とりあえず現状の目的地を高知市に定めて、移動の方法を考えてみた。ヒッチレースには「ヒッチ」というワードが含まれているが、ヒッチハイクでの帰還が原則ではない。例えば離島へ飛ばされた場合など(今回は佐渡島へ流された参加者がいるようである)、現地でアルバイトをして資金を調達、そのお金でフェリーに乗船し鉄道で京都へと帰還。という方法もokとされている。しかしここは山の中であり、私の所持金は非常時の公衆電話代200円のみであかから、まず公共交通機関を使用する選択肢は消滅。徒歩で移動しようにも山の頂上にあるため、近くの道路がどこまで続いているか分からない。もし間違って市街地と反対方面に進んでしまうと命の危機が確実になってくる。終わった…と短い生涯を振り返っていると、意外と車通りがあることに気がついた。車通りがあると言っても5分に1台通るかどうかのレベルではあるが、とにかく希望が持てる。展望台に隣接する駐車場から道路へ向けて親指を立てて腕を伸ばし、いわゆる「ヒッチハイクのポーズ」をやってみる。ちょっと恥ずかしかったが、命が掛かっているためすぐに真剣になってくる。腕を動かしてみたり、帽子を被ってちょっと目立たせてみたりのアピールを行ったが止まってくれる車は無く、高知県民の無慈悲さに腹を立てる1時間であった。到着してすぐ、もうダメかと思われた時、駐車場に一台の車が。どうやら夫婦のようである。ドライブの途中だろうか車外に出てきて休憩中のようだ。これはチャンス。不審者と思われないよう不気味な笑みを浮かべながらジワジワと近づいて身分を明かし事情を説明。私の置かれた異常な境遇を案じてか、とりあえず車に乗せてもらえることになった。本当に助かった。高知県民大好きです。

夫婦はこの展望台に住み着く野良猫にエサをやりに来ていたとのこと。「高速道路まで送っていこうか?」と言って頂けたが、ここで私の悪い部分が露呈する…。このままICで車が見つかり、すぐに帰ってしまうのは何だか勿体ないと思った私は、とりあえず高知の有名な観光地である桂浜まで運んでもらうことにした。さっさと帰ればよいのに、冒険を求めて桂浜で降ろしてもらう。夫婦にお礼と突然の非礼を詫び、別れる。「君のこと忘れないと思う」と言われて何だか嬉しくなる。本当にありがとうございました。

桂浜では無難に砂浜を歩き、坂本龍馬像を見上げる。むかし大河ドラマ福山雅治が龍馬を演じていたが、像の顔をずーっと見ていると福山雅治というより武田鉄矢だな、と感じた。本当に二枚目だったのだろうか。確か龍馬にも放浪歴があったような。誰も知らない土地をお前も旅したのか、龍馬…。思いがけないところで幕末の志士に京産大生(前期取得単位6単位)がダビングされた。龍馬、頑張るよ俺!

桂浜は想像よりコンパクトで、15分もあれば端から端へ歩ける広さである。太平洋の荒波を眺めながら、今後について考えているとスマホから通知が。今回の旅はTwitterで逐一実況をしながら進めていたのだが、高知在住の方から「ご飯ご馳走するよ!」という内容のDMが届いていた。これは嬉しい、何しろ吉田寮を発ってから何も口にしていない。お願いします、と送信して迎えを待った。桂浜まで迎えに来てくれたご婦人はなんとヒッチレースファン(?)とのことで、ヒッチレースで落とされた学生にカツオのたたきを食べさせる事を夢見ていたという。こんな巡り合わせがあるのか!と感動して車内での話も弾む。どこの大学か、どこで降ろされたのか、恋人はいるのか、高知はどうだ…楽しい時間だった。お昼ごはんにはまだ早い時間だった為、お昼頃までお家にお邪魔させて頂いた。ご子息が京大生(卒業済)とのことで、ヒッチレースにも理解ある方で良かった。高知名産の小夏という蜜柑を頂いたり、仮眠をとってお昼までを過ごした。お昼ごはんは勿論カツオのたたきのタタキである、ご馳走させて頂く身分なので味について論評する立場には無いのだがその味はもう無類である。こんなに分厚いカツオは初めて食べた。また次回高知に来たときは必ず食べると決意。

食事中の会話はもっぱら「どうやって帰るか」について。そこで2つの案を提案され、1つは「ひろめ市場」という魚屋と居酒屋が合体したような市場でドライバーを探すこと。もう一つはIC前のコンビニで本州へ行くドライバーを探すことである。とりあえず、昼食を食べたお店から近かったひろめ市場へ様子を見に行ってみた。店内はわりと広くて、大きめのショッピングモールのフードコートぐらい。真昼間からお酒を呑む人で溢れている。そこで気がついたが、まず酒を呑んでしまうと車を運転できないのでドライバーが見つかっても意味がないということ。また、殆どの人が友人や家族でやって来ており、既に出来上がっている為そこに「ヒッチハイクで京都まで帰りたいので乗せてもらえませんか」などと申し出れる雰囲気ではなかったこと。従ってひろめ市場の案は断念、IC前のコンビニでドライバーを探す案に決定した。一旦先ほどのお家へ戻りシャワーを浴びて少し仮眠、このご婦人にはお世話になりました…。コンビニまで送ってもらい、戻ったら手紙を出すことを約束してお別れ。とても良い方でした、ありがとうございました。

 

ここからが今回の旅でいちばん辛かった場面かもしれない。このコンビニは本当に辛かった…。貰ったダンボールに「本州」と書いて掲げる。高速道路へ入る前のコンビニなので、駐車場の県外ナンバーのドライバーへ重点的に声をかけてみるがこれが全くダメ。2時間程度粘ってみたが殆どが無視、または「ごめんなさい」との返事。しかしまぁ当たり前である、汚い格好をした訳の分からない自称大学生の不審者に乗せてくれ、と言われても乗せるハズがない。私だったら乗せない。が!諦めかけたその時、若い男性二人組が関心を示してくれた。二人は地元の出身で、帰宅途中という。この時点で身体的精神的にも疲弊していた私は帰りたい、の一心で事情を説明。どうやら思いが伝わったようで、高速道路を経て南国サービスエリアまで乗せて頂けることになった。二人の厚意に大感謝。サービスエリアの食堂でもご飯をご馳走になり、食事後も40分程度次のドライバー探しを手伝ってくれた。19時を過ぎた頃、明日の予定があるとのことで連絡先を交換し合い、また高知へ来ることを約束してお別れした。助かった、とにかく高速道路まで出てこれたので乗せてもらう確率は大幅にアップした。ありがとうございました。

ここからサービスエリアへ立ち寄ったドライバーへ声をかけ続けるがなかなか捕まらない。しかしコンビニの時とは違い多くの方が話してくれたりアドバイスをくれた。その途中で話した高知大学の学生と連絡先を交換、激励が身に沁みた。南国サービスエリアでの数時間、あまりに極限状態が過ぎて何故か涙が出てきた。意味わからん。

空も真っ暗になってサービスエリアにやって来る車も少くなり、野宿も現実的になってきた頃。大阪ナンバーのBMWが。大阪まで帰れば最悪徒歩で京都まで行ける、「よかったら乗せて頂けませんか」と声をかけると今までの苦戦が嘘のように「いいよ乗って」と乗車に成功。しかも大阪である、本州には確実に帰れる。安心だ。乗せて頂いたのはご夫婦で、高知観光の帰りだそうだ。私と同じくらいのご子息がいらっしゃるということで乗せてあげよう、と思ったらしい。ありがとうございます。途中、淡路島のサービスエリアでうどんをご馳走になりお土産まで買って頂いた。お土産の鍋焼きラーメンは同じ車で四国まで来た同乗者と食べようと思う。ご夫婦は大阪に在住とのことだが、時間も深夜0時を回っているためそのまま吉田寮まで送って頂けることになった。生きて帰れる…よかった。

 

吉田寮到着は午前1時16分、親切なドライバーの方のおかげで無事帰還できた。旅行時間は約25時間といったところか、運がよく想像以上に早い帰還だったのではないだろうか。大学生の諸君らも来年は是非参加してみてはいかが。楽ではないし過酷な旅ではあるが、それを超える楽しさを享受することのできる貴重な経験だったと感じている。ここに、簡単ではあるが吉田寮祭ヒッチレースの備忘録として記録する。改めて、今回のヒッチレースでお世話になったドライバー・現地の方、吉田寮祭関係者の方々に御礼を申し上げたいと思う。どうもありがとうございました。

 

※北海道へ飛ばされた私の友人が現在もヒッチレース中なので彼の応援をよろしくお願いします。